中国研修報告①
2019.07.31
この度、弊所とお付き合いのある中国の特許法律事務所のご厚意により、2週間は北京オフィス、1週間は上海オフィスで、中国商標の実務について研修を受けることになりました。研修中の中国での生活と研修内容をご報告させていただきます。
■ 初日
北京は大阪に比べて暑く、北京に着いた瞬間にじめじめとした湿気と熱さを感じました。北京空港の交通渋滞により、到着時刻が予定より遅くなりましたが、現地事務所の方が迎えに来てくださり、無事に目的地に到着することができました。
![]() (お世話になる現地事務所が入居しているビルです。) |
![]() (現地事務所の所訓です。R&Cの名の由来と共通しているところがあります。) |
この日は、事務所案内をしていただきました。こちらの事務所は日本のクライアントが非常に多く、ほぼ毎日日本の企業や事務所からの訪問があるようです。また、日本語倶楽部というものがあり、週に3回昼休みに日本語を学ぶ機会を設け、日本語を上達するための活動を行っています。日本語を学ぶことに非常に積極的で、日本のクライアントが多い理由が頷けます。
その日の夜は、私のために歓迎会をおこなっていただき、本場の北京ダックをごちそうになりました。日本ではあまり食べる機会がありませんでしたが、北京ダックは油が多めの料理で、濃厚で美味でした。また、度数が50度程度ある「白酒(バイジュウ)」を初体験し、皆で乾杯して、一気に飲み干す交流の仕方が中国にあることを知りました(飲んだ時は喉が熱くなりますが、慣れれば美味しく飲めます)。
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日本の生活と比べて驚いたことは、現金の支払いがほとんどなく、電子マネーが一般的になっていることです。中国の都市部ではスマートフォンを使ってあらゆるものの支払を済ませることができます。レストランの注文も、スマートフォンで済ませます(メニューはスマートフォンで確認するので、紙のメニューはいりません)。タクシーに乗るにもスマートフォンで予約するのが当たり前のようです(ちなみに、日本のようにいきなりタクシーを停めて乗せてもらうことは困難かもしれません。日本のように「空車」の表示がないのと、多くが予約済みのタクシーだからです)。
■ 2日目
この日の午前は、弊所から現地事務所に依頼している案件の打ち合わせを行いました。実際に顔と顔を合わせて話をすることは細かい日本語の伝え方の部分や直してほしいところを伝えやすく、お互いの考えていることを理解するいい機会になりました。
午後からは中国の出願の中間手続について講義を受け、日本の商標実務と異なる点が多々あることを学びました。特に商標の類否判断については、外観・称呼・観念の3点のうち、外観と観念の2点が重要とのことです(日本では、称呼が重視される傾向にあるので、ここは大きな違いだと思います)。中国語は、同じ称呼であっても異なる漢字が多く存在し、中国人にとっては、読み方が同じでも誤認・混同が生じにくいという点が、前述の2点に比べて称呼が低い位置づけになっている理由と思われます。また、日本の拒絶理由通知書とは異なり、中国の拒絶通知書は、拒絶査定になったことを意味します(但し、実体審査において説明や修正が必要と判断される場合には、日本と同様に意見書の提出する機会が与えられるとのことです。しかし、そのようなケースはごくまれのようです)。中国では、拒絶通知書を受領した場合も、意見書を提出する機会が与えられた場合もどちらも応答期限は15日しか与えられませんのでクライアントにすぐに報告する必要があります。応答期限の延長も認められません。中国商標局より拒絶通知書を受領する日が毎週水曜日ということで、この日商標部の皆様は、拒絶通知書が何通来ているかを気にしている様子でした。
■ 3日目
この日の午前は、自由活動ということで、事務所の方に故宮博物館に連れて行ってもらいました。ここは、荷物検査が行われますので、非常に厳戒な監視がされています。故宮内は非常に広く、日陰で休める場所が少ないため、全部を周るのはかなり大変です。
![]() (天安門広場にて) |
![]() (焼けるような暑さで、皆が傘をさしています。) |
午後は、税関登録・取締の実務について講義を受けました。現在、税関登録がされている有効な件数はトータルで約48,000件あり、そのうち商標権に基づくものが圧倒的に多く(約43,000件)、著作権では約2,800件、特許権については約2,600件が登録されているようです。中国税関の保護データでは、侵害品の99%は輸出品とのことで、中国で製造された侵害品が世界中に流れていることがデータからわかりました。主に東部沿海地区の、浙江省や上海等の税関で保護されるケースが多いとのことです。また、外国の商標権者から委託を受けて、中国でその商標を付した製品を製造・輸出する行為が、同一・類似の商標に関する中国の商標権者の商標権の侵害にあたらないと判断された、興味深い再審事例の判決を学びました。
■ 4日目
この日は、現地事務所の商標部の方に、日本の商標法について簡単な紹介を行いました。日本の商標の類否判断に関する最高裁判決の紹介、侵害事件の事例紹介等を行いました。ただ、中国の皆様は類否判断や侵害事件のことより、日本の拒絶理由に対する応答期限が中国に比べて長いことを頻りに羨ましいとおっしゃっていました(日本では拒絶理由通知書に対する応答期限は在外者の場合、3月与えられますし、延長も可能です)。この点は、中国の方に同情します!
■ 5日目
この日は休日でした。大変ありがたいことに、現地事務所の方に万里の長城に連れて行ってもらいました。北京の中心部から車で約1時間半のところです。私が連れて行ってもらったのは、観光客の少ない「慕田峪長城」というところです。緑が多く、北京よりは比較的過ごしやすい暑さで快適でした。ただ、非常に急な階段が多く、運動不足の私には、大変な一日になりましたが、中国の壮大さを感じ取れる貴重な経験になりました。

以上、中国研修報告①でした。